クロガネ・ジェネシス

第14話 登頂 トレテスタ山脈
第15話 探索、襲撃、逃走
第16話 ネル 激怒
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第ニ章 悪夢の古城

 

第15話 探索、襲撃、逃走



 食堂。日は既に沈み、魔光による光が辺りを照らしている。

 その中に、1人椅子に座り、読書に励んでいる零児の姿がいた。

「零児? 何してるの?」

 そんな零児の姿を確認したシャロン声をかける。首からバスタオルをかけており、しま模様のワンピースと言う薄着だ。どうやら入浴直後のようである。

「読書さ。俺はこれでも読書が趣味なんだぜ」

「なんの本?」

 興味ありげにシャロンが近づいてくる。

「創作魔術の本さ」

「そうさくまじゅつ?」

「ああ。魔術師の杖を使った魔術は歴史が古いんだが、オリジナルの創作魔術ってのは開発されてから数10年程度の歴史しかない。俺自身今後強くなるために色々研究してたのさ」

「強くなるための研究……」

「そう」

「私も……色々考えてるよ。強くなりたいから」

「そっか、なんか新しい技とか出来たのか?」

「フフッ……」

 シャロンは意味深に笑う。いたずらっぽい笑みだ

「ヒミツ……だよ」

「そっか。いつか披露してくれよな。楽しみにしてるぜ」

「うん」

 シャロンの笑顔はとても晴れやかだった。

「あら? 零児? それにシャロン」

 その時、零児とシャロンの前にアーネスカが姿を現した。短パンに白のランニングシャツ。太ももも、へそも丸見えだ。

「お前少し服装自重したらどうだ……?」

 シャロンの前ということもあり、零児はアーネスカのその格好を咎《とが》めた。

「いいじゃない、別に。明日起きて、着替えるまでの間なんだからさ」

「見せるもんもねぇくせに……」

「なんか言った?」

「別に……」

 ギロリと睨み付けるアーネスカ。その目つきを知ってか知らずか、零児はドライに返した。

「ま、いいけどねぇ。あんた何時ごろ寝る予定?」

「まあ、9時頃の予定ではあるけど」

「そう。ま、なるべく早く寝ておきなさいよ。なるべく早く起きて、早く移動して、次の休憩ポイントまで移動しておきたいからね」

「分かってる。そういうお前は?」

「エブルとパルテの様子を見てから寝ようと思ってるわ。これからね」

 エブルとパルテというのは、アーネスカ達と共に旅をしている2頭の馬のことだ。

「そうか」

 アーネスカはシャロンに目を向けた。

「シャロン。一緒に行く?」

「うん」

「じゃあ、零児。ちょっと外行ってくるわね」

「ああ」

 アーネスカとシャロンは2人そろって外にいる馬の様子を見るために外へと向かった。

 零児は再び本に視線を戻し、描かれている文字に目を走らせ始めた。

 その直後。なぜか慌てた様子でアーネスカとシャロンが戻ってきた。

「? どうした?」

「……いないのよ」

「いない?」

「馬が……馬がいないのよ!」

「なに!?」

「とにかく来て!」

 零児はアーネスカに促され、外へ向かった。



 零児達のように馬と共にトレテスタ山脈を越える人間は少なくない。そういう人間のために、馬を収容する馬小屋はトレテスタ山脈休憩所の宿には必ず存在している。

 零児達と共に旅をしてきた馬も当然のごとくこの宿の馬小屋に収容されていた。

「どういうことだ……」

 しかし、アーネスカの言うとおり零児達と共に旅をしていた馬は2頭ともいなくなっており、荷車だけが残されていた。

「ちゃんと繋いでたのか?」

「当たり前よ! 馬は重要な移動手段なんだから、管理に妥協はしないわ!」

「お馬さん……」

「どうするアーネスカ。探すか?」

「夜にこんな山の中で馬の捜索ねぇ。気は乗らないけど、やるしかないわ! 馬無しじゃ野宿も増えるし、移動時間も大幅に変化するし。いいことなんかないわ!」

「分かった。火乃木とネルも連れてこよう。人手は多いほうがいい」

「OK。あたしも着替えて入り口の前で待ってるわ」

 3人は1度宿へ戻った。



「まさかお客様の馬がいなくなってしまうなんて……」

 宿屋の前でラックスが呟く

 宿屋の前には零児、アーネスカ、シャロンに加え、火乃木とネレスの5人が集合した。さらに宿屋の管理人であるラックスとディーエの2人もこれに加わっている。

 アーネスカはラックスに視線を送りつつ口を開く。

「こう言うことは今まであったんですか?」

「いえ……。今までも馬を連れてここの宿を訪れる方は多々おりましたが、このような事態は今まで1度も……」

「ってことは、何者かが意図的に馬を連れ出したって可能性が考えられるわけですね?」

「そうかもしれません」

 そこで零児が口を開く。

「いずれにしろ、捜索を始めるなら早いほうがいい。問題はどこを、どう探すかだ。これだけ広い山を探すにしたって、しらみ潰しじゃ非効率的過ぎる」

 零児の意見に付け加えるように、今度はネレスが口を開いた。

「それに、辺りは暗いから分散して探すっていう方法も取れないと思う。もし遭難なんてことになったら……」

「だな。だとすれば全員で行動を共にするべきだろう……」

「いえ、二手に分けましょう」

 そう提案したのはラックスだった。

「僕……失礼しました。私とディーエの2人を中心に二手に分けるんです。そうすれば遭難の危険は少なくなります。私とディーエでしたらこの辺りにも詳しいですし、馬を見つけたときに即座に馬小屋に連れて行くことも可能です」

「なるほどな……俺は異論はない。アーネスカはどうする? 二手に分かれても問題なさそうだが……」

「効率はいいほうがいいからね。それで構わない。じゃあ、パーティは……」

 アーネスカが7人いるパーティを分ける。

 結果、零児、ネレス、シャロン、ディーエの4人と、アーネスカ、火乃木、ラックスの3人と言うパーティになった。

「なんでこういうわけ方なんだ?」

「そんなの適当よ! どう分けたって3人と4人にしか別れないわけだし、あとは個人の性格と相性ね」

 ――当てになるのか? それは?

 異を唱えたところで時間の無駄にしかならない。

「私たちは、広場より下のほうを探します。ディーエの方は。上の方を」

「……分かった」

 零児達4人は今いる広場より上、すなわち明日昇る予定だった方向だ。

「ネル……どう思う?」

 捜索開始早々、零児はネレスに言う。

「分からない……としかいい様がないかな?」

「ま〜。そうだよなぁ。分かるわけないわな。ディーエさん」

「はい」

「坂を漠然に登っていったって可能性ももちろんあると思いますが、馬が山の中のほうに入ることはありえると思いますか?」

 零児の問いに、太い声でディーエが答える。

「ありえると思います。基本的にトレテスタ山脈を越えるための道は一本道ではありますが、人間によって整備されていない平坦な道や、草原は健在です。山脈を越える道から外れれば、そういう所に簡単に入れてしまいますからね」

「だとしたらそういうところを探すべきですかね?」

「一概にそうとも言えないですが。ある程度登ったら、そちらの方を探してみたほうがいいでしょう。あまり登りすぎても体力を消費するだけですからね」

 4人はまずは坂を登り、馬を探し始める。

 馬を探すとしても別段何かしら情報があるわけではない。

 なので、闇雲に探さざるを得ない。

「皆さん、これ以上登っても、戻るのが大変になるだけですので、この辺りから、森のほうを探してみませんか?」

 15分ほど経過したところでディーエがそう提案した。

「どうする? クロガネ君?」

「そうだな。森の中を探しながら、宿に戻るってことも出来るわけだし、メリットがあるのならそっちのほうを選択するべきだろうな。2人はどう思う?」

 零児はシャロンとネレスに意見を求める。

 2人とも異存はないようだった。

 シャロンの光球によって生み出された光を頼りに4人とも森の中に入る。

 木と木の合間からもれる月明かりだけでは明かりとしては不十分だからだ。

 足場は短い草ばかりで、行く手を阻むほどのものではない。しかし、若干傾いており、坂になっているあたりが自分達が山の中にいるということを認識させる。

 そして、森林の中を馬を探して歩くことさらに15ほど経過したところで、ネレスが口を開いた。

「もう、どれくらい探したっけ?」

「30分くらいは経ってるな……」

 朝からずっとトレテスタ山脈を登り続けて、十分な睡眠をとらずにこの馬探しだ。つらくても仕方がない。

「皆さん、一度このあたりで切り上げて、明日の朝探してみてはいかがでしょう? 暗闇で闇雲に探しても見つかりそうにありませんし……」

 ディーエがそう提案する。今まで宿を経営する立場に立って多くの人間を見てきたからこその気遣いだった。人間の徒歩でここまで歩くにはとても大変なのだ。

「そうですね。アーネスカには悪いけど、ここは一旦引くべきかもしれませんね」

 確かに夜の森で探し物が見つかるなど絶望的と言わざるを得ない。

 これが馬だからまだ見つかりやすいだろう打算もアーネスカにあったのかもしれない。

 零児はディーエの提案に従い、1度宿に戻ることにした。馬だって人間がいなければ何もできないような存在ではない、一晩くらい自力でどうにかしているかもしれない。

 4人がいざ戻ろうときびすを返したそのとき、ディーエの動きが止まった。

 それは零児達も同じだった。

 なぜなら一行の目の前に大蛇が1匹木の枝から垂れ下がるような体勢でこちらを睨み付けていたからだ。

「また蛇か……」

「まったくだね……」

 うんざりしたような口調で言う零児とネレス。

「……私が対処します」

 ディーエは目の前の大蛇を睨みながら、自らの腰に右手を持っていく。ディーエの腰には鉈《なた》があった。それを引き抜き、構える。

「ふぅぅぅぅぅ……!」

 大蛇に向かって鼻息荒く睨みつけ、全身から殺気を放つディーエ。人間なら恐怖に駆られて逃げ出してしまうであろうほどの恐ろしさがあった。

 動物としての本能か、その殺気を察知した大蛇は、睨みつけるのをやめ、ノロノロとその場から去っていく。

「すげぇな……」

 零児は感心する。殺気だけで動物撃退など中々できるものではない。というか人間業ではない。

 ――これも亜人のなせる業か?

「……むぅ……これは」

 ディーエの表情に脂汗が浮かんでいる。

「クロガネ君……私達……結構やばいみたいだよ……」

「……(コクン)」

 ネレスとシャロンも状況を理解したのか、緊張の面持ちで零児に言う。

 言われて零児はあたりを見渡した。

「な〜るほどねぇ……これは」

 ディーエによって1匹の大蛇は撃退されたはずだった。

 暗闇に紛れて地を這い、舌を出して威嚇し、よだれを垂らし、大きさも長さも千差万別の蛇。

 それが1匹、2匹と増えていく。

 そして、気がつけば無数の蛇に包囲されていた。

 シャロンの光球に反射して、鈍く光る蛇のうろこと瞳。

 それは群でありながら1つの獣のようにすら思えた。

「で、どうするディーエさん?」

 余裕の表情で言う零児だが、その表情は強張っている。零児自身だってそれは分かっている。

「逃げましょう。この数ではなぶり殺しにされるだけです!」

「同感だな……!」

 その直後、一匹の蛇がディーエに向かって跳んでくる。ディーエがそれを鉈で叩き落すと同時に、威嚇のみに留まっていた蛇達が一斉に動き出した。

 そう、零児達人間を食うために!

「全員走れぇぇ!」

 零児が叫び、蛇に背を向け走り出す4人。その直後、背後にある無数の気配が動き出したことを感じたのは言うまでもない。

 自分達を追ってきているのが嫌でもわかる。

「蛇って自分から獲物を追い掛け回すような動物だったかぁ!?」

「そんなの知らないよ! 今は逃げるに限るってね!」

 零児にしろネレスにしろ、蛇の生態になど興味はない。そしてネレスの言うとおり今は逃げるほかないのだ。蛇の餌になりたくなければ!

 全員全力全快で走る。

「ハァ……ハァ……!」

 しかし、シャロンの息がすでに上がり始めている。零児やネレス、ディーエに比べて、体力的な面で劣っているのだ。

「シャロンごめん!」

「え……? わっ!」

 零児は右手でシャロンを抱えあげて走る。その方が幾分速いかと思ったからだ。

「……?」

 その時だった。月明かりによって照らされた木々の間から、巨大な建造物の一部が見え隠れしている。

 それが何なのかはよくわからないが。

 逃走開始から数十秒。全身が疲労にさらされる。背後の無数の蛇は消えない。どこまで追いかけてくるのかと誰もが思ったそのときだった。

 森が開けた。同時に巨大な城と、その周囲に存在するドーナツ状の巨大な穴が口を空けていた。

 そして偶然か否か、零児達の目の前には城へと続く橋がかけられていた。

「あの城まで走るんです!」

 ディーエが全員を叱咤激励する。

 ネレスとディーエが先に橋の上を渡り、シャロンを背負ってペースダウンした零児が続く。

 そして、零児が橋を渡り始めた瞬間、背後で橋の一部が崩れる音がした。

「え!?」

 驚く間もなく、零児の背後でガラガラと何かが崩れる音が聞こえてくる。橋そのものが崩壊を始めたのだ。

「うそだろぉ!?」

 零児はこれでもかというくらい全力で走る。

「クロガネ君! 早く!」

「分かってるぅ!」

 零児とシャロンより一足速く橋を渡りきったネレスが言う!

 しかし、零児が渡り切るより早く、橋が全壊した。

「なっ!?」

 零児の足元から、零児の体重を支えるものが消え去る。

 その時、ネレスの手が伸びて零児の服の裾をつかみ落下を止める。

「ディーエさん、シャロンを早く!」

「はい!」

 零児が叫びディーエは零児の右肩に乗っているシャロンに手を伸ばす。

 先にシャロンが橋の上に登り、続いてネレスの協力を得て、零児も這い上がる。

「ハァ……ハァ……ハァ……た、助かった……」

 肩で息ををしながら零児が言う。とりあえずは誰一人欠けることなく無事のようだ。

「で……ハァ……ハァ……ここどこ?」

 ネレスが額の汗をぬぐいながら言う。

「分からん……」

 酸素を体内に取り込み体力が若干回復してくると同時に、頭が冷静になってくる。

「馬の失踪に、蛇の襲撃、橋の崩落……これ偶然か?」

「それこそ分かんないよ……」

 零児は言い知れぬ不安と嫌な予感を感じた。疲労がそれに拍車をかけていた。

 
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